門上西林 物見遊山 【#291/2022.4.30】

話は転がって広がって。
本の内容は勿論、
時代背景なども垣間みることができる『三千円 一〝本〟勝負』。
来月もお楽しみに。
※今回ご紹介した本は、
大阪・もりのみやキューズモールの「まちライブラリー」で
読んでいただくことができます。
<まちライブラリー ホームページ (もりのみやキューズモール)>
http://machi-library.org/where/detail/563/
●今夜の選曲●
<門上選曲>
幻のドラゴン / スピッツ
<西林選曲>
ぼくたちの失敗 / 森田童子
<ラストソング/テーマ「髪」>
セレクター:西林初秋
War/No More Trouble / Bob Marley & The Wailers
門上武司・西林初秋が週替わりで担当する『放送後記』
今週の担当は西林さんです。
--------------------------------------------------
今回ご紹介した、なかにし礼の『血の歌』は未発表の短編です。死後、著者の机の引き出しからみつかり、長男が判断して出版したもの。発表しなかった理由はおぼろげにわかる気がします。兄の娘の歌手デビューから物語ははじまるのですが、主テーマはそれではなく兄との葛藤。それは『兄弟』のテーマそのもので、エピソードも重なるものが多数あります。
発表する気はないとしても、なかにし礼が書かずにはいられなかったところに惹かれます。いずれ発見され、蛇の足と評価されるとわかっていても衝動に抗えなかった心理に、作家をこえた何かを感じます。兄が弟におしつけた常軌を逸した多額の借金。返済の日々。裏切りの連鎖。救済と排除、擁護と絶縁の間でゆれる血のつながり。兄は死に、完済し、苦闘の日々は遠く過ぎたとはいえ、その傷はいつまでも癒えなかったということでしょうか?断固として許せぬ傷のうずきが筆を走らせたのでしょうか。原稿用紙にして60枚ほどの小説。長編の『兄弟』より兄の非道さが痛く迫ってきます。
<西林初秋>


