物見遊山
門上西林 物見遊山 【#152/2019.8.31】[8.31 sat]

一冊の古本から始まる話の旅。
話は転がって広がって。
本の内容は勿論、
時代背景なども垣間みることができる『三千円 一〝本〟勝負』。
来月の最終週の土曜日もお楽しみに。
※今回ご紹介した本は、
大阪・もりのみやキューズモールの「まちライブラリー」で
読んでいただくことができます。
<まちライブラリー ホームページ (もりのみやキューズモール)>
http://machi-library.org/where/detail/563/
●今夜のお届けした曲●
M① 椿姫~ジゴレット~ / 相曽晴日 ......... (門上選曲)
M② なぜか上海 / 井上陽水 ........ (西林選曲)
M③ Song of the Sea / Lisa Hannigan
(エンディング・ソング) ....… (門上選曲)
※今夜のエンディング・ソング選曲テーマは『海』
門上武司・西林初秋が週替わりで担当する『放送後記』
今週の担当は西林さんです。
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谷川俊太郎『日々の地図』、田村隆一『スコットランドの水車小屋』、そして金子光晴『女たちのエレジー』。読み込んだ詩集を3冊あげろといわれれば迷わずそう答えます。なかでも散文をよく読んだのは金子光晴。饒舌体のなかに臭覚的言葉を絢爛に散りばめた文体は、整えただけの洗練とは真逆にあるもので惹きつけられました。
さて、臭気は上へのぼるほど、臭いから香りに変わるといいます。金子光晴の臭覚的言葉は、地面すれすれから収穫した土着的で、粘着的なもの。おちぶれ、めちゃくちゃで、やくざの底辺を何度もさまよい、死ぬまで手から口への暮らしをしてきた金子光晴にとっては、土からむっくりとわきたった臭いこそが、いちばん身近な生と性の臭いだったのでしょう。
また、金子光晴は、非戦、反戦を訴えるのも臭覚的。『ねむれ巴里』に、パリ行きの船に同船した中国女にいたずらするシーンが描かれています。ときは対戦前夜。アジアの中国人は排日を叫び、敵対心を剥きだしにしていた時代。しかし手練手管の金子光晴は中国人4人組の部屋へ割り入り、仲良くなってしまいます。ある夜、下のベッドで眠る中国人女性の下着のなかへ手をしのばせて肛門をさぐる。その指先を嗅いで「日本人とすこしも変わらない、強い糞臭がした」と書くのです。なんだかんだといがみ合っても同糞同臭、とレジスタンスを表現する。金子光晴の神髄をみます。
<西林初秋>