物見遊山
門上西林 物見遊山 【#150/2019.8.17】[8.17 sat]

今夜のトークテーマ
「夏に手元に置いておきたい写真集・画集」
●今夜の選曲●
M① Moonlight Drive / The Doors .....(西林選曲)
M② Mas Que Nada / Sergio Mendes .....(門上選曲)
M③ On The Beach / Chris Rea
(エンディング・ソング) ...... (門上選曲)
※今月のエンディング・ソングの選曲テーマは『海』
門上武司・西林初秋が週替わりで担当する『放送後記』
今週の担当は西林さんです。
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日本文学に缶ビールを解放したのは、村上春樹だと思っています。今回紹介した『波の絵 波の話』でも、「マカハ・ビーチの氷河期」というエッセーは、「バス停のわきにあるマーケットでよく冷えた缶ビールの6本パックとパストラミのサンドウィッチを買い、それから砂浜に寝転んでずいぶんと長いあいだ波を眺めていた」という文章で始まります。
村上春樹の初期の小説やショートショートでは、実にしばしば、主人公が缶ビールを飲むシーンが描かれています。作中で取り上げられる曲がロックからクラシックに変わっていくように、飲み物も中期にはワイン、最近はウイスキーが多く登場するようになっていますが、初期の飲み物といえば圧倒的に缶ビールでした。瓶ビールだと昭和の日本文学の澱が立ち上がります。缶ビールを飲ませるところが、さすがは業師、新鮮でした。
「でもよ」と遠い昔の学生時代、ある先輩がいいました。「村上春樹の小説のようにスナックやビーチにいってサンドウィッチを食いながらビールを飲んでもよ、ああうまく女とは出会えないんだよな」。そう、村上春樹の主人公は女性に不自由しない人たちでした。そしてそれは缶ビールを飲むからではないことを、当時の愛読者は苦い実体験として学んできたのでした。
<西林初秋>