CIAO 765
今日は長いけど、大事なことなんだ[12.16 mon]
Buongiorno a tutti! (ブオンジョルノ・ア・トゥッティ)
おはようございます。
どうも、僕です。野村雅夫です。
今僕が読み進めているのが、イタリアの作家パオロ・ジョルダーノの小説『タスマニア』です。これは今年の始めに邦訳が出たものなんですが、僕が手にしたのは先月。例によっての積読っぷりなんで、遅くなってしまいました。でも、タイミングとしてはとても良かったと思いながらページをめくっています。
ジョルダーノは1982年生まれで、僕と同じトリノ出身。デビュー作『素数たちの孤独』がイタリアの名高い文学賞を獲得してヨーロッパでベストセラーになり、映画化もされました。日本でもいろいろ訳が出ていますが、一番売れたのは『コロナの時代の僕ら』かなと思います。
他にも戦争ものなんかも書いていますが、とても論理的に人間の心理に迫る筆致が特徴と言えるかもしれません。というのも、彼はトリノ大学で物理学のPh.Dを獲得している理系の人。今回の『タスマニア』では、その出自が一番はっきりあらわれていて、主人公は自分自身。といっても、エッセイやルポではなく、その体を取ったフィクションという「オートフィクション」というようなスタイルです。
「僕」は夫婦という個人的危機を覚えつつ、まるでそこから逃れるようにして、気候・環境や核の問題などグローバルな人類の危機についての本を執筆中というのが設定。タイトルは『タスマニア』ですが、実はパリや広島、そして長崎も出てきます。ここでなんとなく想像はつくかと思いますが、映画『オッペンハイマー』でクリストファー・ノーランが描写してみせた核開発の裏側、そして日本への原爆投下の話も重要なエピソードとして出てくるんです。
「読むタイミングが良かった」と僕が書いたのは、全国原水爆被害者団体協議会、被団協がノーベル平和賞を受賞する直前だったからです。スピーチでオスロまで出向かれた田中熙巳さんにも、ジョルダーノは取材をしてこの小説を書き上げました。IMAXで今年観た『オッペンハイマー』のことも思い出しながら、読むことになります。そして、田中さんは物理学の専門家でもいらっしゃる。
被団協の受賞は喜ばしいことですが、現実の世界を見渡せば、これは新たなスタートと言えます。そんな時に、ごくごく小さな個人の暮らしと人類全体の大きな問題を、ここがポイントですが、あくまで面白く、グイグイ読ませます。ぜひ、あなたも、このタイミングで。
今週も、聴ける範囲でのおつきあい、まずは今朝11時まで、よろしくです。